継続賃料評価におけるスライド法では、経済指標等を使用してスライド率を求めます。
使用される経済指標等は、まあ、業界では定番的なものもある訳ですが、「各種数字が何を表すものか?」・「その数字にはどのような癖が有るのか?」等まで意識している鑑定士は少ないように思います。
そこで、個人的な備忘録もかねて、私がスライド法で使用することの多い経済指標を列挙するとともに、その数字が表すもの、その数字の癖などについてもコメントを加えていこうと思います。
一気に書ききれないので、気が付いた時に少しづつアップデートする形になりますが、ご活用いただければ幸いです。
税金・路線価等
固定資産税額
オーナー側の費用負担の変遷及び元本価値の変動を表す数値として、地代・家賃共に活用される場合が多いです。
但し、制度の変更や特例によって、税額に割と大きな変化が生じてしまったりします。例を挙げますと、
- 平成6年(1994年)評価から導入された地価公示の7割水準評価により、前提となる評価額が大きく変わっている(この点は:過去の土地価格を探る場合は、平成4年・平成6年に注意:土地の公的価格の一元化をご参照ください)
- 200㎡以下の住宅用地を見ると、課税標準(税額計算のベースになる価格)が昭和48年(1973年)より1/2・昭和49年(1974年)より1/4・平成6年(1994年)より1/6と変遷している(参照:一般財団法人 資産評価システム研究センター第13回固定資産評価研究大会概要)
- 建物について、新築時より一定期間の減免を行う特例が有る
などです。
直近合意時点と価格時点が近い場合には問題が無いのですが、上記のような『ハザマ』が介在する場合には、特に『元本価値を示す』という部分が大きく揺らぎますので、注意が必要です。
対象地前面の相続税路線価
土地の価格推移を客観的に示す指標として使用される場合があります。
こちらに関しては、
- 平成4年に大きな評価方法の見直しが有ったこと(前記と同じく過去の土地価格を探る場合は、平成4年・平成6年に注意:土地の公的価格の一元化をご参照ください)
- 実勢価格との間に差異が生じている場合が有ること
に留意する必要が有ります。
客観性という意味では劣りますが、上記を考えると、これを使うならむしろ基礎価格を使う方が適正な結果が得られると思っています。
オフィス賃料関係指標
CBREのオフィスマーケットレポート
オフィスの新規賃料の推移を示す指標として良く使用される指標です。
2014年(平成24年)に集計法が大きく変わって、2013年まで『平均募集賃料』であったのが、『推定成約賃料』になりました。
成約ベースの賃料水準を追いかけられる点、非常に有難いのですが、継続賃料のスライド指標として使用する際には、この断絶がネックになる場合が有ります(2014年の資料で2013年(平成23年)までの推定成約が見れますが、もうちょっと遡りたい場合も多いです。リーマンショックが2008年(平成20年)なので、せめてそこまでは遡りたいんですよね…)。
尚、母集団は、2014年調査以降、原則延床1,000坪以上の新耐震ビルです。
推定成約賃料の定義は、対象ビルのサンプル調査に基づく共益費込想定成約賃料(フリーレント等のインセンティブは考慮しない)となっています。
直近合意時点が2013年以降であれば、非常に使いやすいのですが、2013年以前に遡れないことと、次項の三鬼商事さんとの比較では、地方都市で細かな地域ごとの推移を見れないのが残念な部分です。
※当該指数に一気にたどり着くリンク先が無いのですが、以下のリンクから探してみてください。
三鬼商事オフィスマーケット情報
こちらもオフィスの新規賃料の推移を示す指標として良く使用される指標です。
こちらは、共益費抜きの募集賃料ですが、①1990年(平成2年)まで遡れること・②月次で公表されている事・③エクセルデータのダウンロードもできる事が特徴的です。
①については、同一基準で古くまで遡れるのは有難いです。この種の具体的なデータで最も古くまで遡れて、バブル経済崩壊付近のところまで行けますので(尚、東京以外は残念ながら1995年以降になっています)。
②については、普段はあまり月次まで必要ではないのでしょうが、特殊事情(今回の新型コロナ等)の影響を見る際に非常に有難いです。尚、2002年以前は12月時点のみの公表になっています。
③については、転記ミス等の軽減に有難いですね。ちょっと分かりにくいのですが、同社・同コーナーのデータセンターというページからダウンロードできます。
母集団は、各地域ごとに対象が異なり、大阪の場合は延床1,000坪以上の主要事務所ビルです。上記のCBREとは異なり、旧耐震を含むか否かについては明記はありません。
昨今においては、賃料が共益費込みで形成される傾向が有り、またあくまでも募集賃料ですので、特に下落期において成約水準と乖離する可能性が有ります。
この点が、スライド指標として使用しにくい部分ですが、上記①~③の特徴と、特に地方エリアで細かな区分けでデータが有る点は、有難い指標と言えます。
日本不動産研究所 全国賃料統計
こちらは一般社団法人 不動産研究所が毎年発表している賃料指数です(オフィスのみではなく共同住宅もあるのですが、ここではオフィスに焦点をあてて書いていきます)。
1997年(平成9年)より調査が開始されており、全国60都市にモデル建物76を想定し、同社の不動産鑑定士等が鑑定評価手法に基づいて新規実質賃料を査定して導出しています。
前二者とは異なり指数ですので賃料の絶対額は見えませんが、実質賃料(支払賃料に一時金の運用益・償却額をかみしたもの。共益費は含まない。)の推移を表した指数なので鑑定評価との親和性は高いです。
区分については、
- 全国及び地方別(全国・北海道・東北・関東・北陸・中部東海・近畿・中国・四国・九州・沖縄)
- 都市圏別(東京圏・東京都区部・大阪圏・名古屋圏・三大都市圏以外)
- 都市規模別(六大都市の政令指定都市・六大都市以外の政令指定都市・人口30万人以外の都市・人口30万人以外の都市)
の区分で、かなりふわ~っとした広域的な区分なのですが、以下の主要地点については「どのあたりに想定された、どのような規模のビルか」も明示したうえで、指数が公開されています。
札幌(駅前通り)・仙台(青葉通り)・東京(大手町・丸の内)・横浜(横浜駅西口)・名古屋(栄)・京都(烏丸通)・大阪(御堂筋)・神戸(三宮)・広島(紙屋町・八丁堀)・福岡(天神)
尚、近時の結果については、同社ホームページで公開してくれてますが、継続賃料で使うような場面だと冊子版を入手する必要があります。また、同社で販売しておらず、購入は全国官報販売協同組合からになります。できれば不動研さんからデータダウンロード販売してくれると有難いのですが…