立退料の評価

オーナーサイドの都合(普通借地・普通借家の契約期間満了時も含む)に支払われる金銭給付が『立退料』ですが、その概念も評価手法も整理されていない状態になっています。

そこで、まずは立退料を考える上での前提として、その概念等を整理させていただいたうえで、弊社の取り組みをご紹介させていただきたいと存じます。

立退料の概念等整理

立退料とは?

『立退料』とは一般的に、オーナー都合でテナント(借家人または借地人)に退去をお願いする場合に交付される金銭のことを言います。

但しこれは、広義の立退料で、細かく見ていくと以下の2つの場面に分類されます。

法律上の立退料=正当事由の補完

まず狭義の立退料として、『法律上の立退料』が挙げられます。これは、(借家を例にとると)建物明渡請求訴訟を行った結果としての判決の中で示される立退料です。

借地借家法において、普通借地・普通借家をオーナー都合で『更新拒絶』もしくは『解約』する場合には、『正当事由』が必要になります。

この『正当事由』が有るか無いかは、訴訟の中で裁判官が判断するもので、オーナー側・テナント側各々から見た必要性・賃貸借についての経緯・テナントの用途・建物の状況等の諸々の状況を踏まえて個別的に判断されますが、テナント優位の借地借家法の元ですのでテナント優位の判断が下される傾向にあります。

立退料と正当事由1

そうなると、「一度貸したら二度と出て行ってもらえない」様なことになり、オーナー側にあまりにも酷なので、正当事由を補完する要素として『立退料の提供』が認められています。

立退料と正当事由2

これが、狭義の立退料である『法律上の立退料』になるわけですが、

  • 諸々の要素を勘案したうえで、オーナー側を重くするためのものなので、相場等があるものではなく案件ごとに異なること
  • その金額を把握するにあたっては、契約文言の解釈および契約書に明示されていない事項の合理的意思解釈・借地借家法の趣旨に則った利益衡量等の法律的な思考が必要になること
  • あくまでも『正当事由の補完』であることから、オーナー側に正当事由のかけらもなければ、いくら立退料を積んでも明け渡し請求が通らないこと

に注意が必要です。

法律によらない立退料=解決金としての立退料

上記に対して、民民の立退き交渉の中で支払われる立退料や、調停・訴訟の中で和解された立退料は、法律的な根拠は存しない『解決金』的な色彩のものになります。

無論、調停・訴訟の中では、前述の法律による枠組みに準じた主張・立証が行われますが、オーナー側に正当事由のかけらもない場合でも、テナント側がその金額で納得すれば建物明渡等が実現できる点に前者との違いがあります。

尚、この場合の立退料については、テナント側がどこで納得するか次第になるわけですが、

  • 情報の非対称性の中で、極めて安価な額になる場合もあること(特に住居系の民民交渉)
  • 理論・理屈よりも総額感が重視されがちなこと(特に住居系)
  • 立退料が大きくなりがちな商業店舗については、『公共用地の取得に伴う損失補償基準』(次項で詳細を解説する)に基づく算定結果がたたき台として用いられることが多いこと

が指摘されます。

立退料の構成要素

立退料の構成要素については、『公共用地の取得に伴う損失補償基準』に準じて以下のように整理することが一般的であり、かつ弊社代表者の経験則上、裁判官も同様の認識をしている方が多いです。

『公共用地の取得に伴う損失補償基準』は、「公共の福祉」の観点より、公共事業に必要な土地等を取得・使用することに伴って生じる損失に対して補償する場合の基準を定めたものです。
一般的な『立退き』とは異なりますが、テナント側が不随意な建物明渡を余儀なくされることに対しての補償である点共通しており、項目・算定方法が整理・明示されていることから、立退料算定においてもこの考え方が準用されることが多いです。

1.借家人補償額

居宅・事務所の場合
  1. 「現行家賃」と「移転先家賃(当該地域の標準的な家賃)」の差額(賃料差額保障
  2. 「現契約解除により返還される敷金」よりも「移転先敷金(当該地域の標準的な一時金)」が大きい場合、その借入金相当額(敷金差額運用益補償
  3. 「移転先礼金(標準的な礼金)」(礼金補償

に対する補償になります。

店舗の場合

上記に代えて、「借家権価格」の補償が行われることが一般的です(逆に言えば、居宅・事務所で「借家権価格」)の補償が行われることは、一般的とは言えません)。

2.内装費等保証額

内装等補償額はテナントが附加した内装・造作・設備(移設不能なもの)に対する補償です。

『公共用地の取得に伴う損失補償基準』においては、「未償却残価があるものの、移設できないことから生じる損失分」を補償するものですが、正当事由が低位な場合には「即時営業可能性」の観点からこの部分に積み増しが行われることも多いです。

なお、移設できる設備については動産移転補償の中で移設費用を計上することが一般的です。

3.営業補償(店舗の場合)

  1. 店舗移転に伴う営業休止期間の収益
  2. 店舗の休止・移転によって、営業再開後一時的に得意先を喪失し、従前の売上高を得ることができなくなると予想される場合における、低下した売上高が従前と同じ売上高になるまでの間の売り上げ減少分にかかる限界利益(得意先損失補償)。
  3. 休業期間中においても必要となる経費(固定経費補償)
  4. 従業員に対する休業手当(人件費補償)

に対する補償です。なお、後記5.その他移転雑費がこの項目の中で合わせて計上される場合もあります。

4.動産移転補償

いわゆる「引越し代」に対する補償になります。

5.その他移転雑費

移転に伴う登記変更費用・営業許可等許認可にかかる費用・開店広告費・移転通知費・ホームページ等の更新にかかる費用・開店祝いにかかる費用等の移転雑費に対する補償になります。

立退料構成要素の帰結としての用途別立退料の多寡

上記の立退料構成要素から、理論値としての立退料上限額は、店舗>事務所>居宅の順になります。理由は以下の通りです。

  1. 店舗の場合、借家人補償として借家権相当額が計上される:一般に借家権価格>賃料差額等になります。
  2. 借家人の負担する内装等は、店舗>事務所>居宅となる:特に店舗は内装も高額になり、移設不能な設備も多くなりがちになります。
  3. 店舗の場合、他にはない営業補償項目が出てくる。
  4. 動産移転補償も、店舗の場合は什器設備の一時保管等の必要性も出て来得る。
  5. その他移転補償も、店舗移転広告費等高額になりがち。

この結果、店舗の立退料については、月額賃料の100か月~200か月分というような、オーナー側からは予想だにしないような高額な水準になってしまう場合もあり得ます。

立退料の評価方法等

立退料の評価方法

以上のような立退料について、鑑定評価基準においては『立退料』についての記述がなく、その1項目たる『借家権』についての記述があるのみです(つまりは、前記の内装補償等・営業補償・動産移転補償・その他移転補償は鑑定評価基準では評価できません)。

また、借家権価格の算定方法についても前時代的・非現実的な部分があり、『公共用地の取得に伴う損失補償基準』との整合性も存しないことから、不動産鑑定士が評価を行う場合であっても、立退料にかかるプレイヤーの共通認識的となっている『公共用地の取得に伴う損失補償基準』をベースとして行うのが一般的になっています。

もちろん、立退料と『公共用地の取得に伴う損失補償基準』は、ベースが異なるので修正は必要です。
まず、民民の利害調整である立退きスキームとは異なり、「公共の福祉」が背景にあることから、必要限度額の補償になるように設計されています(よって、各項目の数値は、民民間で決着した立退料より安く算定される傾向があります)。
次に、『公共用地の取得に伴う損失補償基準』は、事業者側に正当事由がない場合の補償ですので全項目が全て積み上ります。これに対し、立退料算定においては、立退料以外の要因による『正当事由の充足の程度』に応じて、積み上げた各項目から減価が行われる場合があります。

このような構造の中で、鑑定士が立退料を依頼された場合は、『鑑定評価基準に基づく鑑定書』としてではなく、『調査報告書』・『意見書』・『コンサルレポート』として発行されるが一般的です。

立退料の評価依頼が行われる場面と、依頼する場合の注意点等

立退料の評価依頼が行われる場面としては、大きく分けますと、

  1. 建物明渡訴訟の中で、裁判所が不動産鑑定士を指定して行う公的鑑定(第三者鑑定)
  2. 調停・訴訟の資料として提出するための私的鑑定
  3. オーナー様側が立退き交渉の作戦を立てるための概算評価

の3パターンに分けられます。以下、各々の場合の特徴と注意点について、まとめていきます。

1.公的鑑定(第三者鑑定)の場合

この場合、依頼の主導権は裁判所にあるので、原告側であろうと被告側であろうと、担当鑑定士等をコントロールすることは難しくなります。

とはいうものの、

  • 評価の対象を『借家権のみ』とするのか、移転費用等も含む『立退料』とするのか?:基本的には後者ですが、前者で進めたがる裁判官もまれにいます。
  • 結論たる立退料は、『各項目の上限値の合計』か、『正当事由の具備の程度も勘案した最終決定数値たる立退料』か?:基本的には後者が求められる場合が多いのですが、構造を理解していない中で前者で出す鑑定士も散見されます。

については、明確にしておかないと、後々トラブルになります。

また、各種項目に関する資料については、出せば参考にされますし、出さなければ一般の数字から類推されます。この部分については、慎重に判断してください。

2.調停・訴訟の資料として提出するための私的鑑定

評価の対象を『借地権のみ』とするのか、移転費用等も含む『立退料』とするのか?を明確にすべき点は前者同様です。

但し、『正当事由の具備の程度も勘案した最終決定数値たる立退料』を出すには、ある程度双方当事者の主張が出尽くさないと、難しい部分があります。

また、特に店舗物件でオーナーサイドに立った評価においては、テナント側の営業収支にかかる資料が出ていなければ、想定でやらざるを得なくなります。

この中で、

  • 早い段階で成果物を出せば話は進めやすいものの
  • 一定議論が尽くされないと、たたき台的なものにしかならない

という相反する状況の中でバランスを取っていく必要があります。

3.オーナー様側が立退き交渉の作戦を立てるための概算評価

この場合、双方当事者の主張も、テナント側の収支も見えない状況の中での評価になりますので、どれだけ頑張っても概算的なものにならざるを得ません。

ですので、きっちりしたレポートを作成するというよりも、大まかなイメージ・幅を知るため的なものにならざるを得ません。

この中での弊社の対応

以上のような中での弊社の対応ですが、この記事を見ていただいている方からのご依頼は、前記2.の場合(調停・訴訟)もしくは3.の場合(概算)になるかと存じます。

立退き交渉に関しては、ある程度の水準を指し示しながら交渉を行いつつ、お互いの条件を詰めていくのが基本になります。

オーナー様からのご依頼の場合・テナント様からのご依頼の場合で対応は異なってきますが、いずれの場合も最初の段階からきっちりとした成果物を提出することはお勧めしておりません

オーナー様からのご依頼の場合

まずは、概算的な数字をつかむためのたたき台的なレポートを作成し、最低限度の数字(但し一定の理由のある数字)から交渉をスタートしていただくのをお勧めします。

民民交渉であれ、調停・訴訟であれ、たたき台的な数字を提示すれば、相手方からの資料・要望も出てきて、代替物件の候補等も上がってくるかと思います。

それがある程度出そろった段階で、まだ落としどころが定まらないような場合には、今までの経緯を踏まえた決め打ち的な成果物を提出されるのがベストです。

この中で、各項目の決定理由・正当事由を踏まえた減額とその理由を示していけば、相手方の理解も得やすくなりますし、後に裁判で第三者鑑定を取らざるを得なくなった場合にも、第三者鑑定の担当鑑定士を一定限度拘束することが可能になります。

テナント様からのご依頼の場合

テナント様側の立退料交渉は、オーナー様側からの額の提示から始まりますので、その詳細が不明な場合は、査定根拠を詳細に聞くところから始めるとよいでしょう。

そして、オーナー側からの提示数値と査定根拠および、こちら側で持っている実績値と希望条件をベースに希望数値を積み上げていく方向になるでしょう。

調停・訴訟等では成果物を出す方が心証形成上有利ですが、この種の成果物は後出しの方が有利な部分が多々ありますので、出来れば先にオーナー側に出させて、これに対しこちらの数字で上書きしていく方が戦いやすい部分があります。

近年の評価実績(直近5件)

  • 大阪市北区内・飲食店舗の立退料の算定
  • 大阪市中央区内・医療系店舗の立退料の算定
  • 大阪市中央区内・医療系店舗の立退料の算定
  • 大阪市中央区内・飲食店舗の立退料の算定
  • 東大阪市内・飲食店舗の立退料算定

最後に…立退き交渉に入る前に(貸家オーナー様向け)

以上を読んでいただくと感じていただけると思うのですが、立退き交渉はオーナー様からすると相当に重たい話になります。

また、立退き交渉にかかる時間についても、調停で半年から1年・裁判だと1年から2年程度見ておく必要があります。

立退き交渉は、建物の建替え等に伴うのが一般的で、建物建替え時期は事前に分かるものですから、居宅系で5年程度手前・オフィスや店舗の場合10年程度手前から準備をしていく方が逆に効率的です。

具体には、契約更新期にあたるテナントから、賃料を下げてでも定期借家に切り替えていくのがベストです。

もちろんそれでも、立退き交渉が必要になるテナントも出てくるでしょうが、1つ・2つなのと、10・20なのとでは労力も違いますし、費用も大きく変わってきます。

このあたりに関しても、お問い合わせいただければアドバイスさせていただきますので、中期的なスパンで見ることもぜひご検討ください。


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