・まだ最終稿ではないこと
・団体の立ち上げまで幾分時間を要すること
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本小研究の趣旨
平成26年基準改正で新設された賃貸事業分析法であるが、まだまだ若い手法であることから正体が見えない部分も多く、「なんとかして適用除外にしよう」としている方も多いかと思われる。
とはいえ、訴訟等の現場では「賃貸事業分析法を適用していないこと」が攻撃されるポイントになって来ているのも事実であり、賃貸事業分析法を適用している鑑定書も見る機会が多くなってきた。
筆者も当該手法を適用する機会が増えてきたが、その中で気になりだしたのが、『賃貸事業分析法は、過大な地代が出る場合がある』ということである。
本稿は、賃貸事業分析法のそもそもの考え方に遡ってこの原因を探求し、これに対する対策を示そうとするものである。
賃貸事業分析法のそもそもの考え方と、過大な地代の出る原因
賃貸事業分析法は、ざっくり言うと「土地残余法のいとこ」である。
土地残余法は、対象地上に賃貸物件の建設を想定して土地建物の純収益を導出し、ここから建物帰属純収益を控除して土地帰属純収益を求め、これを還元することで土地価格を求めるものである。
これに対し、賃貸事業分析法は、対象借地上に賃貸物件(借地権付き建物になる)の建設を想定して借地権付き建物の純収益を導出し、ここから建物帰属純収益を控除して支払可能地代を求めるものであり、土地残余法を「寸止め」するイメージになる。
この構造の中で、借地権付き建物所有者の利益は建物建築費の回収分(無論元利逓増償還率で利益率を確保するが)のみとなり、これに起因して低層階の家賃が十分に取れるエリアで、建築費の安価な低層建物を想定した場合、法外な地代が求められるのである。
例えば、筆者の評価事例でいうと、
- 大阪のとあるローカル駅前の商業地(1階店舗の賃料水準は坪2万円弱)で、平家建店舗を想定した場合に、公示レベルの利回りを使用して素直に賃貸事業分析法による地代を求めると、借地権付き建物について想定されるNOI比率で78.2%・NCF比率で78.5%が地代になり、求められた地代は坪1万円超で家賃の半額程度になる。
- 大阪中心地の商業地(1階店舗の賃料水準は坪12万円~15万円程度)で、2階建て店舗を想定した場合に、公示レベルの利回りを使用して賃貸事業分析法による地代を求めると、借地権付き建物について想定されるNOI比率で93.2%・NCF比率で92.6%が地代になり、求められた地代は坪13万円程度になる。
という次第である。
特に後者などは、常識的な感覚として、どう考えても不当なものと言えるであろう。
※尚、上記における低層建物の想定が非常識か?といえばそうとも言えない。現実に両エリアとも、むしろ低層建物が標準的使用と言える。
上記の解消方法
このような中、訴訟の中で出てくる鑑定書を見ていると各鑑定機関とも苦労しているようで、かなり頑張った建築費の計上・かなり頑張った費用計上等で、何とか数値を収束させようと努力をされているようである。
但し、上記の構造を踏まえたうえで、理屈として説明しやすい方法論は以下の2手法に限られるのではないであろうか。
(1).利回りで調整を行う
まず考えられるのが、利回りを加算する方法である。流動性等の低い「借地権付き建物」ということを鑑みれば、理屈としても整合している。
但し、適正水準に数値を収束させようとすると、相当に大胆な利回り(大阪都心部で10%等)を使用する必要があり、この部分の説明を行い難いという欠点を有する。
(2).事業者利益を控除する
次に考えられるのが、事業者利益(すなわち借地権付き建物所有者の利益)を別途控除する方である。その場合においては、建物建築費の回収部分では借入利息相当額までとしたうえで、NOIもしくはNCFに対する料率で控除すべき事業者利益の設定を行うのが現実的と思われる。
無論、この料率設定次第で大きく数値が動くことになるし、その根拠の説明が難しい部分があるが、
- ホテル評価においては運営者利益の控除が一般的であること
- 利益の大半を地主に流しすぎる構造では、借地権付き建物の運営者(土地所有権の建物よりも当然リスクは大きくなる)はやっていられないという現実があること
に鑑みれば、理解を得やすい方法と思われる。
また、利回りについて、一般の評価に近い感覚で設定できる点も、好ましいと思われる。
本稿のまとめ
本稿では、賃貸事業分析法で過大な地代が出る原因として、事業者利益が十分に配分されないという点を指摘するとともに、①利回りで調整する方法と②事業者利益を控除する方法を提案した。
土地残余法と共に残余収益型の当該手法であるが、残余収益型であるがゆえに建物価格の設定如何で数値がぶれやすい手法である(かつ、体感的には土地残余法以上に数値が暴れるイメージがある)。
さらに言うと、本稿で提案した方法では、本稿で取り上げたものと逆パターンである「建物が高層建築物の場合に、十分な地代が出ない」という現象を解消できない。
とは言うものの、昨今の情勢(建築費の高騰が著しいことから、場合によっては低層建物の方が収支上有利になる)の中で生じている現象の解消としては一定の効果があるものと考える。また、高層建築物を想定する場合にも、②の事業者利益の配分という発想からの検証は、行う価値のあるものではないだろうか。
未だ若い手法だけに、我々鑑定士としても「まだ手の内に入っていない手法」と思われる。この中で、各種の試行錯誤が必要であると思うが、本稿がそのきっかけになるのであれば、筆者としても喜ばしい限りである。
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