継続地代評価における『利回り法』を「使える」手法にするための2つの提案

本稿は、今後立ち上げる団体のために執筆したものです。いずれはそちらの団体で公開等していくものとなり、基本有料会員のみへの公開になりますが、
・まだ最終稿ではないこと
・団体の立ち上げまで幾分時間を要すること
から、期間限定(2023年8月末目途)で弊社HPで無料公開するものです。

本小研究の趣旨

平成26年に行われた鑑定評価基準改正は、継続賃料部分について大きく私的自治重視に舵を切ったことから、差額配分法に重きを置き難くなった。その結果、特に継続地代評価において評価のよりどころとなる手法が皆無な状態となってしまった。

この中で、従前から軽視(もしくは無視)されてきた『利回り法』をテコ入れすべく、平成26年基準改正では当該手法の改正も行われたが、この改正は功罪相半ばするものであるとともに、これをベースに実務的な処理を行う事が難しいのが現状である。

本稿は以上を受けて、継続地代評価における『利回り法』を「使える」手法にするための2つの提案を行うものである。

はじめに:利回り法の概要と平成26年基準改正の概要

平成26年改正前の基準においては、継続賃料利回りの求め方について、「現行賃料を定めた時点における基礎価格に対する純賃料の割合を標準とし、契約締結時及びその後の各賃料改定時の利回り、基礎価格の変動の程度、近隣地域若しくは同一需給圏内の類似地域等における対象不動産と類似の不動産の賃貸借等の事例又は同一需給圏内の代替競争不動産の賃貸借等の事例における利回りを総合的に比較考量して求めるものとする。」と規定されていた。

この規定に従えば、元本価格と必要諸経費の変動に直結した試算価格が導出されることから元本価格(特に土地価格)の変動の激しい時期に『外れ値』が出がちであり、また、鑑定業界で経験則的に認識されている賃料の元本価格(基礎価格)に対する遅効性等を反映しがたいものであった。

この中で、平成26年改正基準では継続賃料利回りの求め方について、「直近合意時点における基礎価格に対する純賃料の割合を踏まえ、継続賃料固有の価格形成要因に留意しつつ、期待利回り(以下同文)」と変更された。

すなわち、『直近合意利回り』を『圧倒的な主役』(「標準」)ではなく『演者の一人』(「踏まえ」)にすることによって、賃料の元本価格(基礎価格)に対する遅効性等を反映させようとしたのである。

平成26年基準改正の功罪

以上のような意図で行われた基準改正であるが、まずは『利回り法』を進歩させようという発想は評価に値する。また、「継続賃料利回り」の決定要素として「期待利回り」を取り入れた点も、継続賃料評価の本質を踏まえたアップデートであったと言える。

但し、「直近合意利回り(実績利回り)に『両当事者の合意意思』を見い出し、これをもとに元本価格と公租公課の変動に対応した賃料を求める」という分かりやすい構造が失われてしまっている(実際、訴訟の現場において利回りの補正を行った場合、裁判官・弁護士から疑義を抱かれる場合も多い。)。

また、H26年改正継続賃料研修の際に、継続賃料利回りの補正の方法として「直近合意利回りと期待利回りの中庸値」を採用する方法が紹介されたことから、かかる補正法がメジャーになりつつあるが、この方法を採用すると、

  • 「直近合意利回り」が「期待利回り」より低い(直近合意賃料が水準より安かったことを示す)場合は、「継続賃料利回り」は「直近合意利回り」よりも高くなり
  • 「直近合意利回り」が「期待利回り」より高い(直近合意賃料が水準より高かったことを示す)場合は、「継続賃料利回り」は「直近合意利回りよりも低くなる

ことになる。

これは、『安かったものは高く・高かったものは安く』していることに等しく、平成26年改正基準で主張されている『契約の拘束性』の重視と相反する結論を生じさせる。更に、基礎価格の上昇期において、「直近合意利回り」<「期待利回り」である場合に当該方法を採用すると、基礎価格の上昇以上の賃料上昇を生じさせることになり、そもそもの目論見である「賃料の元本価格(基礎価格)に対する遅効性等を反映させる」という目的に逆行する結果が生じてしまう。

とはいうものの、上記以外に「直近合意利回り」を補正する方法論は紹介されていない中、現行の継続賃料の鑑定書を見ると、

  • 改正基準を(ある意味)無視して直近合意賃料を採用する鑑定書
  • 何を行っているのか無自覚に「直近合意利回り」と「期待利回り」の中庸値を採用する鑑定書(結果、不合理な賃料が求められているものも多い)
  • 理解不可能な補正方法を行っているもの

が混在する状況となっている。

提案の前提

この状況は、「賃料の元本価格(基礎価格)に対する遅効性等を反映させる」という目的を、もっぱら「継続賃料利回り」に担わせてしまったことに起因するのではないだろうか?

また我々鑑定士も、従前「継続賃料利回り」が半ば自動的に求められてきたことも有り、「継続賃料利回りの本質」(当該賃料改定の場面において、両当事者が納得できる利回り)について熟考することが無かったことも自戒すべきと言える。

以上を踏まえて、2つの提案を行っていく。

第1の提案:「直近合意利回り」・「期待利回り」・「地価推移」の関係性の精査

地価上昇期を前提にして、「直近合意利回り」<「期待利回り」であったとすると、直近合意時点における地代水準は、相場と比較して低位であった蓋然性が高い。とすると、「直近合意利回り」は地主として許容しうる最低限度の利回りということになる。近時において、「地価上昇期には、利回りが下落する」として、「直近合意利回り」<「期待利回り」であるにも関わらず「直近合意利回り」を下方修正する鑑定書が見受けられるが、上記の構造に鑑みれば、このような行為は安易に行うべきではないことが理解できるであろう。

また、同じく地価上昇期を前提として、「直近合意利回り」>「期待利回り」であったとすると、直近合意時点における地代水準は、相場と比較して高位であった蓋然性が高い。この場合、「期待利回り」を「継続賃料利回り」として採用すれば、地主として許容しうる最低限度の地代が試算される。無論、当該地代は「積算地代」に数値的には一致するが、あくまでも「利回り法」で求めた継続賃料たる試算賃料であり、試算賃料の調整においても一定の意味を有する地代となる。

このように、「直近合意利回り」・「期待利回り」・「地価推移」の関係性の精査を行うことで、評価対象たる契約の特性が明確になるとともに、その特性に応じて採用すべき「継続賃料利回り」を導き出せる場合が出てくる。

第2の提案:「直近合意利回り」を「継続賃料利回り」とした試算賃料を明示し、試算価格の調整的に「利回り法による賃料」を決定

第1の提案でも『意味のある利回り法による地代』を出せる場合は出てくるが、理論的に説明し得るのは「継続賃料利回り」=「直近合意利回り」の場合と、「継続賃料利回り」=「期待利回り」の場合に限定される。また、賃料の元本価格(基礎価格)に対する遅効性等を反映することは困難である。

この中で、一足飛びに「継続賃料利回り」を査定するのではなく、まずは「直近合意利回り」を「継続賃料利回り」とした場合における試算賃料を『仮置き』(以下、「仮置き地代」という)したうえで、「直近合意地代」・「正常地代」・「積算地代」(これは第1の提案でもわかる通り、「期待利回り」を「継続賃料利回り」とした利回り法による地代となる)と並べて比較検証を行い、試算価格の調整的に「利回り法による地代」を決定してはどうか?というのが第2の提案である。

決定の仕方としては、「仮置き地代」の料率での補正も良いであろうし、「直近合意賃料」等とのウエイト付けでも良いであろう。要するに、賃料の元本価格(基礎価格)に対する遅効性等や、これも地代決定で重要な要素になる増減額・増減率について、「継続賃料利回り」で織り込むのではなく、「外だし」で別途勘案するのである。

この方法の場合、『鑑定評価基準上の試算式』とは異なるものとなることから違和感を覚える方もいると思う。しかし、少なくとも求められた賃料に「評価上の意味」を持たせることが可能であるし、抽象的な利回り補正を行うよりも第三者への説明が行いやすくなると思うが如何であろうか?

終わりに

「差額配分法」は平成26年改正基準の構造上重視し難い・「利回り法」は外れ値が出がち・「スライド法」は継続地代に対応する適正なスライド指数が存しないという中で、継続地代評価は非常に悩ましいものになっている。

この中で、今まで軽視(もしくは無視)されがちであった「利回り法」の精度を上げることで、多少なり継続地代評価を行いやすくしたい、という趣旨で書いたのが本稿である。

特に第2の提案については、「持って行きたいところに置きに行く」感がある点は否めないが、これは「利回り補正」でも同じことが言えるものであるし、少なくとも第1の提案・第2の提案のステップを踏むことで当該契約の特性等も明確になってくる。

鑑定評価基準と違うやり方を採用することに抵抗がある方も一定いらっしゃるかと思うが、そのような方は裏検証としてでも2つの提案を取り入れていただいてはいかがであろうか。

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