実勢価格(時価)と固定資産税評価額・相続税申告時価格の乖離については、遺産分割協議や遺留分問題の火種になりますので、色んなところで注意喚起をしているのですが、正直「それほど違わないんじゃないか?」というイメージが出来上がっている方も多いようです。
そこで、これを実際に体感していただくべく、実際の物件を例にとってこの差を見ていただきたいと思います。
おそらく今思ってらっしゃるレベル感を超えた差異が出て来ますので、ぜひぜひ最後まで読み進めていただければと存じます。
今回対象とする不動産(J-Reitが取得したマンション)
とはいうものの、我々鑑定士には守秘義務がございますので、実際に担当した案件をご紹介できません。
ですので今回は、取引価格や住所が公開されているJ-Reitの取得物件を使用して、実勢価格と固定資産税評価額・通達評価(相続税申告時の評価額)による価格の差異を見てみたいと思います。
基本情報
- 物件名:S-FORT大阪同心(⇒ 写真・地図付き物件情報はこちら)
- 所在(住居表示): 大阪府北区同心二丁目1番28号
- 土地面積:443.07㎡
- 建物延床面積:2,597.52㎡
- 新築年月日:2017年2月10日
- 取得年月日:2020年8月3日
時価(実勢価格)
時価(実勢価格)については、上記物件をJ-Reitが取得した際の価格17億6500万円を採用します。
これは、物件取得時の鑑定評価額(17億8千万円)とニアリーですし、J-Reitが実勢価格とかけ離れた価格で物件を取得することはあり得ませんので、相当に確からしいものと思っていただいて問題ありません。
固定資産税評価額
ここは多少想定が入りますが、以下より導出できます。
土地価格
この土地が面する街路の相続税路線価は72万円/㎡です。この土地は、きれいな整形地ですので、特段の補正の必要は有りませんので、相続税ベースの評価額(基本となる自用地としての価格)も72万円/㎡と把握されます。
土地の固定資産税評価額は地価公示水準(一応、実勢価格とされています)の70%・相続税の評価額は地価公示水準の80%という関係性が成り立ちますので、本件土地の固定資産税評価額は以下の通り計算されます。
72万円/㎡÷80%×70%=63万円/㎡
63万円/㎡×443.07㎡=2億7900万円
建物価格
当該物件の購入時のプレスリリースに、鑑定評価書のサマリーがついていて、これによる積算価格は19億7千万円・うち建物割合は33.70%となっています。
これを乗じると、鑑定評価書の積算価格の中での建物価格は6億6400万円と計算されます。
建物の固定資産税評価額は、新築時には建物建築価格の50%~60%程度になる傾向があります。そして、上記の建物価格については、ほぼ新築と変わらないこと・建物建築価格に付帯費用が足しこまれていることが指摘できます。
これらを踏まえて推定しますと、建物の固定資産税評価額は、6億6400万×50%=3億3200万円となります。
固定資産税評価額
以上より、固定資産税評価額は、土地2億7900万+建物3億3200万円=6億1100万円となります。
時価(実勢価格)は17億6500万円ですので、固定資産税評価額の約2.9倍になります。
通達評価による価格
次に通達評価による価格(相続税申告時の価格)を算定してみます。ちょっとややこしいのですが、トレースしていただくと、いろいろと安くする仕組みがあることが実感していただけると思います。
土地価格
先ほども引用しました通り、相続税路線価は72万円/㎡ですので、基本となる自用地としての価格も72万円/㎡となります。
但し、本件土地は貸家の敷地ですので、貸家建付地として以下の補正が行われます。
自用地としての価格×(1-借地権割合×借家権割合×賃貸割合)=貸家建付地の評価額
この土地の借地権割合は70%・借家権割合は30%・賃貸割合は100%ですので、
72万円/㎡×(1-70%×30%×100%)=57万円/㎡となります。
更に一定の要件を満たす貸家建付地は、小規模宅地特例を利用できて、200㎡までは評価額を50%に落とせますので、本件土地は以下の合計となり、1億9600万円となります。
- 200㎡×57万円/㎡×50%=5700万円
- (443.07㎡-200㎡)×57万円=1億3900万円
建物価格
相続税を計算する際の建物価格は、基本的には固定資産税評価額を引っ張ってくるのですが、貸家の場合は以下の補正が行われます(また値引きがあります)。
貸家の建物評価額=固定資産税評価額×(1-借家権割合×賃貸割合)
先ほども提示しました通り、この物件の借家権割合は30%・賃貸割合は100%ですので、
3億3200万円×(1-30%×100%)=2億3200万円になります。
通達評価による価格
以上より、通達評価による価格は、土地1億9600万円・建物2億3200万円の合計4億2800万円になります。
時価(実勢価格)は17億6500万円ですので、通達評価による価格の約4.1倍になります。
以上のまとめ
以上の結論を、ちょっと角度を変えてまとめますと、
- 時価(実勢価格):17億6500万円
- 固定資産税評価額:6億1100万円(実勢価格の約35%)
- 通達評価による価格:4億2800万円(実勢価格の約24%)
となります。
通達評価(申告時の価格)ベースで、遺産分割協議をすると、現預金を取った人と不動産を取った人で恐ろしい不公平が生まれる可能性があります。
また、
- 固定資産税評価額もしくは通達評価をベースに不動産価格を把握した遺言書が書かれていて(遺言者は遺留分は発生しないように調整したつもり)
- 相続が発生して、主たる相続人が通達評価で財産把握をしたうえで納税等も行って、「とりあえず終わった、やれやれ…」と思っているところで(主たる相続人の計算では、遺留分は発生しないので、「お父ちゃんちゃんとしてくれてたんやな…」と思っている)
- 共同相続人が鑑定書をつけて実勢価格ベースで遺留分侵害請求されたら…(本件だと13億3700万円相続財産が増えます)
とか考えるとぞっとします(ただ、世の中ではこのような事態が頻発しています)。
もちろん、すべての物件についてこのような開差が生じるわけではないですが、特に都心部・築浅の収益物件だとこういう感じのバランスになることが多いです。
遺産分割協議や遺言書作成の際には、くれぐれもご注意ください。
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