賃料増減額交渉は、『判決をもらう』という場合以外は文字通りの『交渉』になります。
『交渉』である以上、相手方からの満額回答は期待できませんので、こちらとしても何らかの『譲歩』・『お土産』を用意してあげる必要が有ります。
勿論最大の譲歩は『賃料額』ですが、それ以外にも様々なファクターがあり、思った以上に効果的なものも有ります。
正直、「鑑定理論的にどう」という部分は少ないのですが、交渉の引き出しは多い方が良いかと思いますので、今回はこれをまとめておきたいと思います。
1.遅延損害金
まず、『譲歩』として一番思いつきやすいのが、賃料増額請求時の遅延損害金の免除です。
ただ、民民交渉では遅延損害金を提示することはまずないですし、調停の場面でも遅延損害金の免除は基本になっている感がありますので、正直、賃借人側からは大きな譲歩とは感じられないのが実情です。
2.敷金
あまり着目されませんが、敷金の取り扱いも交渉時のバッファーになる場合が有ります。
2.(1)増額請求時の差額差入れ免除
敷金について、契約書で○ヶ月分と定め、賃料増額時には差額を差入れする特約が入っている場合が有ります。
この条項、大したことが無いようですが、賃借人からすると、『賃料は増額される・敷金も用意しなくちゃならない』となるので、結構負担が大きいです。
逆に賃貸人からすると、どうせ返還するお金ですし、必要な担保は当初一時金でカバーしうる場合が多いので、物凄く必要なものでは有りません。
つまりは、賃借人の負担>>賃貸人の必要性になっていますので、差額差入れの免除は思いのほか有効な譲歩として機能します。
2.(2)賃料減額請求時の敷金一部返還等
賃借人が賃料減額交渉を行ってくる場合というのは、恒常的な状況の悪化だけではなく、一時的な状況の悪化も有ります。
特に後者の場合、敷金の一部返還や、(双方合意の上での)敷金の賃料への充当も賃借人にとっては有難いものになります。
勿論、これを行った上でも原状回復等を担保できる敷金残額が確保されている必要が有りますが、一定の敷金が入っている場合には一考の余地は有ります。
3.増額時期
賃料増減額にかかる調停等において、増減額の時期を調停成立時とすることは一般的な譲歩になっていますが、さらに進んだ時期による譲歩も考えられます。
特に賃料増額交渉時において、『来月から増額』というのと『半年後から増額』というのでは、賃借人の負担感は大きく変わってきます。
一方、賃貸人からすると、増額が早期に確定するのであれば、半年後から・一年後からでもあまり変わらない(どうせ調停等になればそうなります)ので、増額交渉時の増額時期による譲歩は有効な譲歩として機能します。
更にこの考え方を押し進めますと、段階賃料の設定も有効な譲歩となります。
4.一時減額
賃借人からの提案として使用されることの多い一時減額ですが、「一度減額するとなかなか元に戻らない」という事で、これを嫌う賃貸人も多いようです。
確かにそのような側面もあるのですが、一時減額は基本的には直近合意を形成しないというメリットが有り、これは思った以上に今後の賃料増減額交渉に大きな影響を与える場合が有ります。
- 直近合意を作っておく方が優位なら、本契約の減額を行う
- 直近合意を作りたくなければ、一時減額で対応する
というように、一時減額を戦略的に使えると、以降の賃料交渉が有利に行えるようになります。
5.定期借家への契約切り替え
賃貸人にとって、定期借家は、
- 困ったテナントなら期間終了時に簡単に出て行ってもらえる
- 建物建替え等を行う際にも退去が確実で、立退料の必要も無い
- 常に新規賃料での入居になるので、賃料上昇期に収益性が高まる
- 特約で賃料増減額請求権を排除できる
等の有利な部分がありますが、定期借家への契約の切り替えはなかなか難しいのが実情です。
しかし、賃借人から賃料減額交渉を受けた際は、そのバーターとして定期借家への切り替えを提示できるチャンスになります。
特にあまり好ましくないテナントに関しては、賃料面で大幅に譲歩しても定期借家に切り替えておく方がメリットが大きい場合も有ります。
逆に賃貸人からの賃料増額交渉時においても、増額幅を譲歩する代わりに定期借家に切り替えるという方法が有り得ます。
特に築古建物などで、近い将来の建て替えを検討している場合には、定期借家化を実現するためにダミーとしての増額交渉を行うという方法も十分に成り立つでしょう。
以上、賃料増減額交渉時に『お土産』になり得る対応についてまとめてみました。
賃料増減額交渉の最適解はケースバイケースで正しい答えは無い訳ですが、『具体の賃料額』以外の部分での譲歩によって、交渉が一気に進展する場面も有るのが事実です。
この記事が、先生が賃料減額交渉をする際の一つの『ネタ』になれば幸いです。
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