試算価格の調整という謎の行為を解明

弁護士の先生から不動産鑑定評価書に対して良く問われる疑問として、

  • 収益価格=鑑定評価額にしているのに、なぜ積算価格を求めているの?
  • 各価格のウエイト付けって結局何?なぜ毎回違うの?

といった、『試算価格の調整⇒鑑定評価額の決定』にかかるものが有ります。

今回はこの点について、不動産鑑定士の本音・私見も交えて、まとめていきたいと思います。

尚、今回の内容は、価格評価を念頭に置いております。新規賃料までは一定妥当しますが、継続賃料では発想が異なってきますので、『継続賃料の試算賃料調整論』は、また別途記事にしたいと思います。

試算価格の調整とは?

まず大前提ですが、試算価格の調整というのは、複数の手法による試算価格(ex.積算価格・収益価格)から結論たる鑑定評価額を導き出す作業を言います。

何故『複数の手法』を適用するの?

ぶっちゃけて言いますと、鑑定評価基準に「複数の手法を適用しろ!」と書いているからです(昔はこれに理論上の背景が有ったのですが、平成14年の不動産鑑定評価基準で無くなってしまいました)。

ただ、実作業的な観点からは、仮に作業段階で『収益価格=鑑定評価額』とすることでほぼ決まっていたとしても、積算価格も出してみて、両価格を比較することで初めてその物件の性格が見えてくるという部分が大いに有ります。

例えば収益物件は、一般的に『収益価格=鑑定評価額』とすることが多い訳ですが(理由は後述します)、

  • 収益価格>>積算価格となった場合、自分の出している土地価格が公的価格に引きずられて安すぎる設定になっている可能性や、何らかの超過収益がある(最近の物件ではほぼ無いですが、昔の大阪の建物には極端な容積オーバーとかも結構あって、これが超過収益の元になる場合も有ります)可能性がある
  • 収益価格<<積算価格となった場合、そのエリアの賃貸需要に適合的ではない建物になっている可能性や、そもそもそのエリアの賃料水準が土地・建物一体での元本価値に連動していない可能性がある

などなどです。

我々不動産鑑定士としては、複数の手法を適用し、その結果生じた試算価格間の乖離を見たうえで、その原因を解明し、再度各試算価格を詰めていくことによって各試算価格の精度を高められます。

ですので、(たとえ使わないにしても)複数の試算価格を出してみることは、鑑定的には十分に意味のあること、という事になります。

試算価格の調整の実質的な内容

前提:試算価格は一致しない

上記の過程で、再度詰めなおした試算価格は、初段の荒っぽい試算価格よりも幾分収束します。

とはいうものの、実際に鑑定評価を行う中では、各手法の適用に必要な資料は、必ずしも十分に集まる訳ではないですし、各手法毎に反映しやすい要因・反映しにくい要因があるのも事実です。

例えばオフィスビルの評価で、「ポテンシャルは有るけど現況空室の高いビル」という要因は、収益還元法ではDCF法を適用して徐々に空室率を下げていく事で反映できますが、原価法では「気合で認定する」しかありません。

また、地域の性格・物件の性格によって、『試算価格が開いて当たり前』なものも有ります(←ここは鑑定士によって意見は分かれますが…)。

この中で、必然的に各試算価格に開差は生じるので(逆にピタッと一致するのは100件に1件くらいで、そうなると「オオっ!」て思います。)、必然的に一つに価格(鑑定評価額)に収束させるための『調整』が必要になります。

試算価格調整の視点

我々鑑定士が試算価格の調整を行う際には、教科書的には2つ・ちゃんとしてる人は+1の3つの視点から行います。

具体には、

  1. 各試算価格の考え方の、需要者目線との適合性
  2. 今回自分が出した各試算価格の信頼性
  3. その他もろもろ

の3つになりますので、以下順次開設します。

各試算価格の考え方の、需要者目線との適合性

別記事:鑑定評価=プロファイリング?~鑑定評価の基本的な発想と『正常価格』のリアルなイメージで書かせていただいた通り、現行鑑定評価基準は需要者目線を重視します。

この中で、需要者目線と各試算価格の考え方がバチ!っと完全一致するものについては、その価格=鑑定評価額とする場合が多いです。

例えば、

  • 一般的なオフィスビル・賃貸マンション等の収益物件は、需要者目線もまさに収益還元法的になるので、収益価格=鑑定評価額となる
  • フツーの自己居住用の分譲マンションは、需要者目線も取引事例比較法的(他物件との比較における相場観)になるので、比準価格=鑑定評価額となる

といった具合です。

そして、需要者目線と各試算価格の考え方が完全一致しないものについては、合致度に応じたウエイト付けをしていくイメージになります。

今回自分が出した各試算価格の信頼性

まずは上記が基本になるのですが、各々の試算価格の信頼性の点についても考えておく必要が有ります。

これに関しては、入手しえた資料との関係と、手法の持つ特性との関係の観点になります。

入手しえた資料との関係

鑑定評価では、ちゃんとした資料をしっかり集めて、これをしっかり分析しないとどうにもならない訳ですが、案件によってはどんなに頑張っても資料を集められない場合もあります。

例えば、「事務所ビルの評価は収益価格で決まる」と書きましたが、

  • 内見出来ない
  • 今の稼働状態も分からない
  • 今の収支状況も分からない

状況で出した収益価格(依頼者≒所有者である場合、こういう事も有り得ます)は正直、自分でも信用できません

そのような場合は、収益価格=鑑定評価額とするのは無理があるので、他の価格で補っていく必要が有ります。

手法の持つ特性との関係

また、手法の性格上、想定項目だらけなのでそれ一本で出していくのは怖いという場合もあります。

例えば、大規模画地を求める際に、マンション分譲や宅地分譲を想定して行う開発法は想定項目だらけで、その想定数値を動かすと出てくる価格も大きく変わるので、やはりほかの価格も絡めたくなります。

その他

前記で「一般的なオフィスビル・賃貸マンション等の収益物件は、収益価格で決まる」と言いましたが、世の中にはちょっと特殊な収益物件も有ります。

例えば、今は古いので収益性は極めて低いけれど、駅近で建替時に『化ける』可能性が高い賃貸マンションなどの場合、不動産業者が建て替えを狙って購入したりするので、収益価格でもなく積算価格でもなく、更地価格目線で取引される場合も有ります。

また、俗っぽい話ですが『980円理論』(1,000円より980円の方が売れやすいという話)は不動産にも働く部分が有り、ある一線を越えると売れにくくなる場合もありますので、総額感の検討は重要です(←これは鑑定評価基準にも書いてます。もちろんこの通りの書き方ではないですが…)。

この様な場合に、

  • ウエイト付けを工夫して適正な価格にもっていったり、
  • 特定の価格を下方修正して適正な価格にもっていったり

と、乱暴な言い方をすれば、理論値で出せる限界としての試算価格を、ちょっと強引に適正値に近づけていくという作業を行うことも有ります。

この記事のまとめ

以上より、

  • 使わない試算価格を出してみることも、鑑定評価的には意味がある
  • 試算価格の調整作業は、基本的には需要者目線と評価手法の整合性で、ピシッとハマって、かつその価格の信頼性も十分であれば『○○価格=鑑定評価額』になる
  • 但し、ピシッとハマらない場合の他、資料の問題やら手法の性格やらもろもろで、○○価格=鑑定評価額にできない場合が有って、その際はウエイト付けやら何やらという作業を行うことになる

というイメージを掴んでいただけたかと思います。

ですので、試算価格の調整の段階で、

  • 同じような物件でも毎回ウエイト付けが変わるとか、
  • 明確にウエイトが示されないとか…

弁護士の先生からは「分かりにくい」というご意見も有ろうかとは思いますが、適正な価格に持っていくためには致し方が無い部分もある訳です。

まあ、もちろん、試算価格の調整を読んで「なんとなく」でも納得できない鑑定書は、書いた鑑定士の努力不足ということですので…私も日々精進せねばと思っております。

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