賃貸事業分析法は、平成26年の鑑定評価基準で新設された新規賃料(地代)を求める方法です。
新しい手法だけに、あまり鑑定書の中で見かけることのない手法かと思いますが、結構『頼りになる手法』ですので、解説記事を書かせていただきたいと思います。
賃貸事業分析法とは?
賃貸事業分析法とは、
- 評価対象になっている借地上に
- 当該賃貸借契約条件も加味したうえでの最有効使用の収益物件(テナントビル・賃貸マンション等)を建設しこれを賃貸に供することを想定し
- 当該借地権付建物の賃貸事業収支の残余額として
新規地代を求める方法です。
もう少しかみ砕いて言いますと、
- まず土地上に、契約による制限(高さ10メートル以上はダメ等)を踏まえて、一番収益性のよさげな建物を想定します(現況建物には拘束されません。ここで、地上建物について鑑定士の想定が入ります。)。
- 次に、当該建物を賃貸に供した際の家賃等を査定します(ここで家賃等について、鑑定士の想定が入ります。)。
- 更に、当該賃貸事業において必要な費用(水光熱費・維持管理費・修繕費・建物の公租公課等。但し地代は除く!)を想定します(ここでこれらの費用について、鑑定士の想定が入ります。)。
- 上記の2.から3.を引くと、当該物件の年間収支が出ます。ただこれに加えて、借地人は建物の建築費・将来的な建物取壊し費を回収しないといけないですし、適正な経営者利益も必要ですので、さらにこれを控除します。
そして以上の結果の残余額が生じれば、それはすなわち上記の賃貸事業を前提とした地代になる、という発想です。
賃貸事業分析法の長所・短所等
賃貸事業分析法の長所
賃貸事業分析法の長所としては、賃貸事例比較法を適用しがたく、積算法のみに頼らざるを得なかった都心部の新規地代査定において、賃貸事例比較法に代わる地代査定手段となってくれる点が挙げられます。
積算法というのは、正直あまりあてにならない部分も多く、これ一本というのはなかなかにヒヤヒヤするところがあります。
この中で、別の角度から地代を求める方法が鑑定評価基準上正式に定められたのは、我々鑑定士としては非常に有難いことでした。
また、都心部の地代については、実際このような発想で決定されることが多いこともあって、結構良い感じの地代が求められることが多いので、鑑定士的にはこれをやっておくとホッとする部分もあります。
賃貸事業分析法の短所
とはいうものの、前記の査定方法を見ていただいてわかるように、鑑定士の想定が非常に多く介在する点は否めません。
また、新しい手法であるが故に、未だ鑑定士にとってこなれた手法ではないという部分もあります。
普段から日常的に適用している手法は、各種の設定数字の効き方が体感できているので「こんな設定でこんな数字」みたいなのが見えるのですが、賃貸事業分析法を適用していると「うわ、えらい数字が出たな~」みたいに思ってしまうこともあります。
理論的な部分についても、まだ評価理論が完全に構築されていない部分があり、これは不動産鑑定業界の課題となっています。
弁護士の先生としての、賃貸事業分析法に対する注意点
先生方としても、賃貸事業分析法は目新しい手法だと思いますので、まずは上記でざっくりしたイメージを持っていただければと存じます。
そして、もし先生側の不動産鑑定士が書いた鑑定書で、賃貸事業分析法が採用されていない場合には、なぜ採用しなかったのかを確認するようにしておいてください。
この手法も、鑑定評価基準で定められた手法ですので、適用を排除する理由がなければ適用するのが筋なのですが、この手法が新設されたことを知らない鑑定士・どのような手法か分かっていないので適用したがらない鑑定士も多いのが実情です。
もし、先生側の鑑定士が、この手法が適用できるにも関わらず適用していない場合には、相手方の弁護士・鑑定士からこのことを責められる可能性がありますので。
この記事のまとめ
この記事では、
- 賃貸事業分析法の大まかなイメージ(借地権付建物を新築して行う賃貸事業の残余収益=地代)
- 同手法の長所(賃貸事業比較法を行えない場合の有力な代替手法・特に都心でありがたい)
- 同手法の短所(まだこなれていない)
- 先生方への注意点(自分の味方の鑑定士が使ってなかったら注意)
という点を解説させていただきました。
正直、まだよちよち歩きの手法ではありますが、新規地代の説得力を高める有力な手段になりうるものですので、鑑定士には出来る限り適用してもらうようにすべきかと思います。
※記事の内容に対するご質問等ございましたら、お気軽にお問い合わせください。
※これに関連する期間限定公開記事賃貸事業分析法で過大な地代が出る原因と対策がございます。令和5年8月末で一般公開を終了しますので、よろしければこちらもぜひ。
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