利回り法において『直近合意利回り』を補正することの功罪

利回り法は、継続賃料を求める方法の1手法で、査定式は以下の通りです。

基礎価格 × 継続賃料利回り + 必要諸経費等

この中で、基礎価格と同じく試算値に大きな影響を及ぼす『継続賃料利回り』の求め方が、平成26年の鑑定評価基準改正を機にちょっと混乱が生じています。

今回の記事では、利回り法についての平成26年基準改正の影響を概観するとともに、自分なりの考え方も一定示してみようと思います。

平成26年鑑定評価基準改正と利回り法

平成26年の鑑定評価基準改正の前までは、継続賃料利回りは、直近合意時点における純賃料÷直近合意時点における基礎価格(以下、『直近合意利回り』と呼びます)を採用することが基本と規定されていました。

これが平成26年の改定によって、『直近合意利回り』は、継続賃料利回りを求めるための考慮要素の一つに格下げされました。

これは、『直近合意利回り』を採用すると、試算価格が基礎価格にダイレクトに連動してしまい、賃料の遅効性・粘着性が反映されないことを理由とするものでした。

当該改正に対する鑑定士の対応

上記の改正に対する鑑定士の対応は大きく2つに分かれています。

一方は、従前どおり『直近合意利回り』を採用する派・もう一方は、新規賃料を求める際の『期待利回り』と『直近合意利回り』の中庸値を採用する派です。

前者(直近合意利回り採用派)の主張

前者の立場は、鑑定評価基準の改正を知っていると、正直取りにくい立場ではあります。

ただ、この立場の方が、皆、鑑定評価基準の改正を知らないのかというとそうではなく(まあ、実際には半分くらいは知らない人もいると思いますが…)、『直近合意利回り』の採用に以下の合理性があるからです。

  1. 『直近合意利回り』には、直近合意時点における貸主・借主の力関係が現れている。
  2. この中で、『直近合意利回り』を使用して求めた利回り法による賃料は、直近合意時点における貸主・借主の力関係をそのままにし、基礎価格・必要諸経費の変動にダイレクトに連動した賃料が求められることになる。
  3. これは、私的自治重視の近時の判例・平成26年以降の改正鑑定評価基準の考え方にも適合的な賃料である。

特に、上記の1.は重要で、これを把握できることこそが利回り法の最大のメリットです(でした)。

後者(期待利回りと直近合意利回りの中庸値派)の主張

後者の立場は、鑑定評価基準の改正を受けて、『直近合意利回り』が採用しがたくなったことから考えられた便法といえるでしょう。

この立場を採用した鑑定士が理由として挙げるのは、「賃料の遅効性・粘着性の反映」なのですが、

  1. 直近合意利回りが低く、事情変更が上向きの場合に基礎価格の上昇以上の賃料上昇が。反対に、直近合意利回りが高く、事情変更が下向きの場合に基礎価格の下落以上の賃料下落が生じてしまう。
  2. 直近合意時点における貸主・借主の力関係(直近合意利回り)が、一般的な水準(新規賃料を求める際の『期待利回り』)に収束していくという発想が、私的自治重視の近時の判例・平成26年以降の改正鑑定評価基準の考え方に適合的ではない

という欠点があります。

1.については、「賃料の遅効性・粘着性の反映」という発想の逆を行っているのですが、これを無自覚に行っている鑑定士も多いのが現実で、閉口してしまいます。

継続賃料利回りについての個人的な見解

以上の様に、ある種、評価の必要性に迫られる形で行われた平成26年の鑑定評価基準の改正ですが、これによって利回り法の持つ特性が棄損されてしまった部分も大きいです。

ですので、継続賃料利回りの査定にあたっては、やはり「直近合意利回り」を採用するのが本質で、元本価格の変動が小さい場合には、これによって求めた利回り法による賃料は、十分に説得力を持つものと考えます。

問題は、元本価格の変動が大きい場合なのですが、この場合においては「継続賃料利回り」として「期待利回り」を使用するのもありと思っています。

この点については、ちょっとややこしくなるので、近いうちに小さな論文なりを書こうと思っております。書きあがりましたら、この場でもお知らせいたします。

この記事のまとめ

この記事では、平成26年の鑑定評価基準の改正によって生じた『継続賃料利回り』査定の考え方の変化と、これに対して不動産鑑定士がどのように対応しているかを概観しました。

鑑定評価基準は、時代に合わせてアップデートが行われているのですが、過去の改正も含めてみると「時代の反映が強すぎる改正」が行われてきた経緯もあります。

また、昨今においては、試算価格・試算賃料を一致させようというバイアスが強くなって来ていて、これによって無理が生じているきらいがあることも否めません。

評価を担当する鑑定士としては、無自覚・機械的に数式を当てはめるのではなく、出て来た数字の意味をしっかりと咀嚼する必要があると思っているところです。

先生としては、鑑定書を読んで、あるいは事前打ち合わせの際に、何か「気色悪い」と思った際は、遠慮なく担当する鑑定士に突っ込んでいただければ、相互作用の中で『戦いやすい鑑定書』が出来上がるかと思います。

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