今回は、価格評価について既に書かせていただいた『鑑定書はここを読む』の継続賃料編をお送りします。
鑑定書の構成や、表題部については、価格編と共通しますので割愛して、継続賃料ならではの特殊な部分にフォーカスさせていただきます。
尚、継続賃料の鑑定書については、「〇〇はどこに書いてある」というのが人によって違う点が特徴です(鑑定評価って、価格中心に議論が進んでいるので、賃料の話は練れていない部分も多いんです、実は)。
ですので、以下においても、「この辺かこの辺」みたいな表現が多々出てきます。予めご承知おきください。
あと、タイトルにある通り、継続賃料の鑑定書は、丁寧に頭から読んでいっても訳が分からなくなります。まずは以下の順で重要な点を押さえていって、細かなところはそのあとで読むのが効率的ですので、お試しください。
1.契約の概要と直近合意時点
まずは、当該鑑定士が契約関係をどのように掴んでいるかということと、直近合意時点をどこで認識しているかを掴んでおく必要が有ります。この認識が先生と違ったら、話がかみ合いませんので。
前者(契約の概要)については、
- 『表題部』の最後の方または、『鑑定評価額決定の理由の要旨』の最初の方にある、「対象不動産の確認」もしくは、
- 『鑑定評価額決定の理由の要旨』の「価格形成要因分析」の中の「個別的要因」
に書かれています。
後者(直近合意時点)については、前記の「契約の概要」の中にも書かれているほか、『表題部』の「価格時点」の部分に明示している鑑定士も多いと思います。
2.直近合意賃料が安かったのか高かったのか?
現行(平成26年改正以後)の鑑定評価基準は、「直近合意賃料を尊重した上で、その後の事情変更で不相当になった部分を補正するのが賃料増減額請求権だ」という立場を取っています。
※この点は、継続賃料=差額配分法(1/2配分)と思うとかなり危険をご参照ください。
とすると、直近合意賃料が当時の相場と比べて高かったのか・安かったのかは、継続賃料評価において非常に重要な役割を果たします。
この部分について、当然鑑定士として分析・検討したうえで鑑定書にも記載するべきなのですが、これが行われていない鑑定書も有るのが事実です。
きっちり書いている人は、『鑑定評価額決定の理由の要旨』の「価格形成要因分析」の中の「個別的要因分析」の中で『契約の特性』等として書いていると思いますが、そこで書かれていなければ、
- 「利回り法の適用」の中で査定された「直近合意利回り」と、
- 「差額配分法」-「正常実質賃料」-「積算法」の中で査定された「期待利回り」
の関係がヒントになります。
3.直近合意時点以降の事情変更は上向きか下向きか?
直近合意賃料の性格(安かった・高かった)を掴んだら、次に直近合意時点以降の事情変更が上向きか下向きかを把握します。
この点は、『鑑定評価額決定の理由の要旨』の「価格形成要因分析」の中の「同一需給圏分析」もしくは「地域要因分析」で『賃料水準の変動』等として書かれることが多いのですが、そこで書かれていなければ、利回り法による賃料・スライド法による賃料(これらは基本同じ方向に動きます)が上がっているのか下がっているのかから読み取れます。
4.実際実質賃料・正常実質賃料の関係性
次に、現行賃料と正常賃料(新規賃料)の関係性を整理します。
鑑定評価では、税抜きの実質賃料(一時金の運用益等も加味した賃料)で見ていくので、現行賃料についても契約書記載の賃料と異なることも有り得る点、ご注意ください。
※尚、直近合意賃料と現行賃料が異なる場合も有り得て、この場合の処理に争いが有るのですが、ややこしくなるので今回はこの点スルーさせて頂きます。
これに関しては、どんな鑑定士でも必ず書いていて、基本的に書く場所も決まっています。
「差額配分法の適用」の中に双方とも記載されているので、これを抜き出しておくとよいと思います。
継続賃料評価では、差額配分法で使った数字を他の手法でも使う関係上、基本的に差額配分法を最初に適用しますので、ここで実際実質賃料の記述が無かったら、少し前に戻ってみてください。
4.今までの情報の整理&諸般の事情の把握
これは「鑑定書を読む」行為では有りませんが、ここで今までの情報を整理しておくことが重要です…というか、今までの情報が有れば鑑定評価額の方向性が見えてきます。
いくつか例を挙げますと、
- 元々普通の水準&事情変更下向き&正常賃料も下⇒堂々と賃料減額を主張出来ます。
- 元々安かった&事情変更上向き&正常賃料も上⇒賃料増額を主張出来ますが、賃料増減額請求権では「元々安かった」の点まで補正出来ませんので注意が必要です。
- 元々安かった&事情変更下向き&正常賃料はまだ上⇒正常賃料が上でも賃料増減額請求権では「元々安かった」の点まで補正出来ませんので、事情変更が下向きである以上上がりません。ただ、今既に安いものをさらに安くするのはオーナーに酷ですので、「横ばい」鑑定になります。
その上で、直近合意時点以前の『諸般の事情』を鑑定士がどのように認識し、評価に取り入れるかを把握していきます。
これについては、
- 『表題部』の最後の方または、『鑑定評価額決定の理由の要旨』の最初の方にある、「対象不動産の確認」もしくは、
- 『鑑定評価額決定の理由の要旨』の「価格形成要因分析」の中の「個別的要因分析」のなかの『契約の特性』等
が候補とされるほか、「試算価格の調整」の部分でこれについての記述が有る可能性も有ります。
5.手法の適用+試算価格の調整
ここまで来れば、かなり当該評価書の正体が見えてきたと思いますので、ここで各手法の適用の部分を眺めていきます。以下のような表を作りながら読むと後々便利です。
その上で、表を見ながら試算価格の調整を読んでいきます。これで鑑定書の主要部分はほぼほぼ把握できたと言ってよい状態になっているはずです。
6.いらないところを飛ばしつつ、頭から斜め読み
以上の過程を経ると、当該鑑定書の構造が頭に入っているので、頭から読むことも大分楽になると思います。
「これはいらんやろ!」という所は読み飛ばしつつ、一度頭から読んでおくと安心でしょう。
この記事のまとめ
この記事では、実践的な継続賃料の鑑定書の読み方をまとめさせて頂きました。
鑑定書には一定の書くべき内容・書くべき順番があるのですが、正直、継続賃料の鑑定書はこれに載せると恐ろしく読みにくくなります。
ですので、このような読み方をしていった方が、頭から読むよりも確実に内容を把握しやすくなります(私も人の鑑定書を読むときは、この様に読んでいきます)。
急がば回れで、結果的に結構な時短にもなると思いますので、是非お試しください。
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