第三者鑑定の実態と、第三者鑑定で有利な結果を得るためのTips

訴訟においては、いくら先生が信頼できる不動産鑑定士とタッグを組んで適切な主張・立証を行っても、裁判官が「心証を決めかねるので第三者鑑定(公的鑑定・裁判所鑑定)を取って欲しい」と言い出す場合も多々あろうかと存じます。

このような際に備えて、鑑定士の視点で見た第三者鑑定の実態と、第三者鑑定結果を少しでも有利な方向に導くための方法論をまとめてみたいと思います。

第三者鑑定の実態

まずは、鑑定士の視点で見た第三者鑑定の実態です。

担当する不動産鑑定士の質はピンキリ

第三者鑑定を担当する不動産鑑定士の選び方は、管轄の裁判所によって異なりますが、鑑定士の立場から第三者鑑定結果を見させていただいておりますと、正直、鑑定士の質はピンキリです。

無論、ほれぼれするような鑑定書を書いてくる鑑定士もいますが、当該分野に関して全く知識が無く・鑑定評価基準の改正等にも無頓着でボロボロな鑑定書を書いてくる鑑定士も確実に存在しています。

第三者鑑定の怖いところは、私的鑑定とは異なり、担当する鑑定士を自分で選べず、どんな鑑定士にあたるか分からない点にあると言っても過言ではないでしょう。

求められる鑑定書と実際の鑑定書には差異がある

訴訟代理人たる弁護士の先生をはじめとする関係当事者の方は、第三者鑑定について、

  1. 両当事者の主張を把握・整理して、差異を認識し、
  2. この差異に対する意見を明確にして、
  3. 鑑定事項に対する結論を導き出す

ものというイメージがあるのではないでしょうか。

これに対し、実際の鑑定書は、

  1. 訴状・答弁書・準備書面等で書かれたことがあっさりとスルーされて、
  2. 淡々と鑑定評価額が導き出されている

印象があると思います。

これは、裁判所から依頼された『鑑定』(不動産鑑定評価よりも広い概念です)に対して、我々不動産鑑定士が普段から行っている『不動産鑑定評価』で対応してしまっているからと言えます。

そもそも不動産鑑定評価は、「公正・中立な立場で、自分自身で各種調査・検討を行った結果、ど真ん中の価格である『正常価格』を出すこと」が中心となる作業です。

この作業は、第三者鑑定が前提とする「当事者主義」とは相いれない部分もあるのが事実で、また、ともすれば「私らはフツーに鑑定評価をすればよいのであって、答弁書やら準備書面を読んでも意味がないんじゃない?」(実際にこういう風に思っていた鑑定士が友人に居ます)という態度になりがちです。

このような点を改めるため、平成26年の鑑定評価基準改正の際に「両当事者で争いのある事実」が鑑定評価書の絶対的記載事項になったのですが、これは「鑑定士が双方当事者の争いを前提にすること」を意識していなかったことの逆説的な証明になるでしょう。

更に既存の鑑定書のフォーマットは、両当事者の主張の際を比較検討するのに適しておらず、その作業を明確に行っていこうとすると、どうしても「鑑定士の思い描く鑑定書」から遠く離れたものになっていきます。

この結果、前述のような第三者鑑定書が量産される現状となっているのでしょう。

有利な結論を導くためのTips

このような中で、第三者鑑定で有利な結論を導こうとした場合、以下が考えられます。

1.前提として、第三者鑑定を拘束する主張・立証をしておく

まずは原則論にはなりますが、訴訟初期の段階から、第三者鑑定を拘束するような主張・立証をしておくことが重要です。

鑑定評価を行う場合には、物件毎にポイントになる事象がありますので、これを信頼できる不動産鑑定士とタッグになって炙り出しておき、これを覆すのに多大な労力が必要になるような形の主張をしておくのが理想です。

また、鑑定士の中には、前述のとおり訴状・答弁書・準備書面等熱心に読まない人もいますので、これを鑑定書(私的鑑定)という形でも提出しておくことが望ましいです(どんな鑑定士も、既出の鑑定書は熱心に読みますので)。

この点、もちろん鑑定書が望ましいのですが、調査報告書/意見書等でも一定程度可能です(この点は、過去記事:ちょっと進んだ調停・訴訟における調査報告書・意見書の活用術をご参照ください)。

2.鑑定事項の決定期日や、鑑定申出書等の中でもプレッシャーをかける

上記に対して、こちらは事後的なものになるので、いわゆるTips的なものにはなりますが、経験則上、鑑定士にとって、それなりのプレッシャーになります。

鑑定士同席で鑑定事項を決定する期日を設ける場合

ちょっとややこしい案件であれば、鑑定士も交えて鑑定事項を確定する期日が設けられることがあります。

これは、対面で担当の鑑定士に先生の主張を伝えられるチャンスですので、(煙たがられるでしょうが)うまく活用してください。

もちろん、その鑑定士が先生よりの判断を下すとは限りませんが、少なくとも「〇〇側はこの点を強く意識しているので、この点は鑑定書の中でしっかり触れていかなければならない」という意識を持つことになります。

鑑定申出書を出す際

また、上記のような機会が無く、鑑定申出書を出すだけの場合においても、まだ頑張れる余地はあります。

例えば鑑定人の選任の中で「〇〇が争点になっているので、かかる点について適正な分析の出来る鑑定人を裁判所において選任されたい」・「〇〇という点で特殊な案件であるので、この種の案件について精通している鑑定士を裁判所において選任されたい」等と鑑定申出書の中で、どうしても伝えたいことを忍ばせることで、

  1. 裁判所が選任するにあたっても、当該鑑定士にこの点を伝えて受任の可否を取ってくれる蓋然性が高くなる(多少なり「外れ率」を低減できる)
  2. 鑑定士も受任の段階で「この点を意識せねば」と思うようになる
  3. 当該鑑定士が資料を見る中でも、裁判所の出した「決定書」と、両当事者の出した「鑑定申出書」は注意深く目を通す傾向が強いですから、ここでも「この点を意識せねば」と再確認する

ことで、少なくとも「これを見てよ!」っていう点を軽くスルーされる可能性を低減することができます。

現地実査の際

第三者鑑定が決まると、双方代理人・鑑定士で現地実査を行うのが通例になっています。

もちろん、この場においては、「鑑定士の疑問・質問に答える」ことが基本になりますが、まあ、諸々の会話は交わされるわけですし、現地を見ながらだこそ腹に落ちる説明ができる部分も多々あります。

事前に私的鑑定を担当した鑑定士と打ち合わせをしたうえで、現地実査で必ず伝えておくべきことを予めピックアップして、さりげなく会話の中に盛り込んでいただけると、ボディーブローのように効いてきたりします。

この記事のまとめ

この記事では、まず鑑定士から見た第三者鑑定(公的鑑定・裁判所鑑定)の現状を解説させていただきました。

「もっとちゃんとしてよ~」と思われたかもしれませんが、第三者鑑定は、鑑定士の中でも担当している人がごく一部の特殊な世界だったりもするので、これが現状です。まずは現状を把握していただいたうえで、対策を取っていただければと…。

次に、とんでもない第三者鑑定が出てしまうことを防ぐためのTipsを解説させていただきました。

最近、「どうせ第三者鑑定になるので…」と、事前の鑑定等に消極的な弁護士の先生も多いのですが、どっちにぶれるか分からない第三者鑑定で良い結果を勝ち取るには、事前の鑑定等はやはり有効です。

また、主張・立証の組み立ても、最初から信頼できる鑑定士と一緒に組み立てておく方が、圧倒的に安全なので(私も途中から入ることになって、「これはきっついな~」と頭を抱えたことが何度もあります)、「訴訟・調停に至る前から鑑定士とタッグを組んで取り組む」という発想を持っていただければと存じます。

そして、ついに第三者鑑定を申し出せざる得ないところに来ても、最後まで努力の余地は有ります。担当する鑑定士に「あ~この弁護士さんうっとおしいなぁ…」と思われるのは心外かもしれませんが(笑)、出来ることは全部するつもりで挑んでいただければと存じます。

※記事の内容に対するご質問等ございましたら、お気軽にお問い合わせください。


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