弁護士の先生は、お仕事柄、不動産鑑定評価書を読む機会も多いかと思いますが、正直どこを読んでよいのか分からないのではないでしょうか?
ぶっちゃけた話をすると、私たち不動産鑑定士でも、他の人の書いた鑑定評価書は読んでてイライラするようなものです。
ただ、鑑定書には一定のフォーマットが有りますので、勘所を押さえていけば読む量も1/3位に減らせますし、内容も頭に入ってきやすくなります。
今回は、大阪市内中心エリアにあるオフィスビルを対象不動産とする『貸家及びその敷地』の鑑定書を例に取って、鑑定書のフォーマットと読むべきところ/読み飛ばして良いところについて解説させていただきたいと思います。
鑑定評価書のフォーマットの概観
まず鑑定評価書のフォーマットですが、
- 表題(評価額・評価条件等の重要項目が書かれた部分)
- 鑑定評価額の決定の要旨(価格導出の説明が行われている部分)
- 別紙査定表(計算過程を示した表)
- 付属資料(そのまま)
の順になっているのが一般的です(3.は本文中に入れ込む人も居ます)。
この中で、1.『表題』で鑑定評価額等を確認して、2.『鑑定評価額の決定の要旨』でその導出方法を読み解いていく(その過程で3.4.を参照する)イメージになる訳ですが、1.2.にも重要なところ、重要でないところが有るので、以下で詳細を解説します。
1.『表題部』の記載項目と押さえるべきところ
表題部の記載内容は、概ね以下の通りです(赤太文字が重点確認項目・青文字が要確認項目で、黒文字は読み飛ばして良いところになります)。
- 鑑定評価額
- 対象不動産の表示
- 鑑定評価の基本的事項
- 種別・類型
- 鑑定評価の条件
- 価格時点及び鑑定評価を行った年月日
- 価格の種類
- 鑑定評価の依頼目的等
- 鑑定評価の依頼目的
- 提出先等
- 鑑定評価の依頼目的及び条件と価格の種類との関連
- 関与不動産鑑定士及び関与不動産鑑定業者に係る利害関係等
- 対象不動産の確認
- 不明事項に係る取り扱い
- 不動産鑑定士の役割分担
確認するうえでの注意点等については、以下でまとめていきます。
重要確認項目(赤太文字)
1.鑑定評価額・3-3.価格時点・3-4.価格の種類
これらはまあ、当然と言いましょうか…最終結果と、評価における基礎中の基礎条件ですので。
鑑定書を読み比べる際には、最初にこれらを抜きだした対象表を作っておくと便利です。
3-2.鑑定評価の条件
普通は現況評価が多いので、あまりナーバスになる必要は無いのですが、ここに何かが付いている場合、それによって価格が変わってくる可能性があります。
気持ち悪いことが書いていないかどうか、しっかりチェックしておいた方が良いです。
7.対象不動産の確認
ここも、一般的な物件でしたらシンプルな記載になるのですが、登記と現況が違う場合・未登記建物や越境が有る場合・不法占拠者等が居る場合などの、気持ちの悪い事項が有る場合にここに記載される場合が多いです。
この気持ち悪い事のさばき方で価格が変わる場合も有りますので、きっちりとチェックするとともに、鑑定書を読み比べる際にはこの部分の記載も見比べておくべきです。
要確認項目(青文字)
2.対象不動産の表示
先生が依頼した鑑定士が間違えていることは無いとは思いますが…評価対象の取り方が複数考えられる場合も有りますので、双方鑑定書で評価対象が違うという可能性は有ります。
特に鑑定書読み比べの際には、土地合計面積・建物延床面積が同じか否かは確認してください。
3-1.類型・4-1.依頼目的
『依頼目的』は、『価格の種類』とつながるイメージ(民事再生の財産評定⇒早期売却の特定価格)は定着していると思いますが、『評価類型』とも密接につながります。
また、相続に関連する評価における評価類型論は、不動産鑑定の分野で確立されているとは言い難く、鑑定士によって差が出る部分でもあります。
ですので、この点についても『気持ち悪くないか』確認いただくとともに、評価書の読み比べの際には両者に齟齬が無いかもチェックしておいてください。
7.不明事項に係る取り扱い
両当事者から資料の出る裁判所鑑定(第三者鑑定・公的鑑定)とは異なり、私的鑑定では不明事項が有るままでの評価となる場合が多いです。
これによっても評価が変わってきますので、不明事項の有無とその取扱いは確認しておく方が良いです。
2.『鑑定評価額決定の理由の要旨』の項目と押さえるべきところ
『鑑定評価額決定の理由の要旨』の記載項目についても、同様に一覧してみます。
- 価格形成要因の分析
- 一般的要因の分析
- 地域分析
- 市区町村またはエリアの特性
- 同一需給圏の特性
- 近隣地域の特性
- 個別的要因の分析
- 土地に関する要因
- 建物に関する要因
- 建物及びその敷地に関する要因
- 鑑定評価手法の指摘
- 鑑定評価手法の適用
- 原価法の適用
- 収益還元法の適用
- 試算価格の調整と鑑定評価額の決定
こちらも、以下注意点等まとめていきますが、説明のしやすさから先ほど(赤字・青地順)とは順番を変えて、上から順次見ていきます。
1.価格形成要因の分析
価格形成要因の分析は、マクロ⇒ミクロに、
- 一般的要因の分析(全国~都道府県レベル)
- 地域分析(市区町村~街区レベル)
- 個別的要因の分析(対象不動産自体の分析)
の三段階で書かれます。
この中で、論理必然的に、マクロ⇒ミクロに進むにつれて対象不動産の価格への影響が大きくなります。
ですので、個別的要因の分析を最も注力して読むべきという事になりますが、不動産の場合は周辺環境も重要なので、地域分析も眺めておく方が良いです。
一応、以下に各レベルに対するコメントを入れておきます。
1-1.一般的要因の分析
マクロ的な要因は、もちろん重要ですが、これを分析できる鑑定士は居ないので、ほぼほぼ何らかの経済指標(月例経済報告等)のコピペです。
なのでサクッと飛ばしていただいてOKです。
1-2.地域分析
この部分は多少個性が出るのですが、
- 対象不動産の存する市区町村もしくはエリア(ex.北浜エリア)の性格
- 対象不動産の属する同一需給圏の特性
- 近隣地域の特性
の順で書かれる場合が多いです。
1-2-1.市区町村・エリアについての部分
まず、市区町村・エリアについては、その特徴を論じている部分だけ斜め読みして頂ければ結構です。
尚、この部分について、「主要道路が国道〇号線で、鉄道はJR△線と阪急□線があり…」みたいに良く分からない情報を羅列してる鑑定書がありますが、あれは鑑定業界で入手できる情報のコピペです。
正直、全然意味が無いので、深入りしないでください。
1-2-2.同一需給圏の特性(赤文字)
次に、2.同一需給圏の特性ですが、これはその不動産が存する市場の現状を示すものですので、結構重要です。
なお、市場というのは、一つの物件に複数存する場合もあり、評価対象が大阪市内中心部のオフィスビル(価格評価)であれば、
- 大阪市内中心部のオフィスビルの売買市場
- これに影響を与える大阪市内中心部のオフィスビルの賃貸市場
を分析する必要が有りますし、この分析は価格に直結します。
ただ…このあたりについて自覚なく、どんな物件でも更地の市場について分析している鑑定士さんもいるので、このような鑑定書は疑ってかかりましょう。
1-2-3.近隣地域の特性(青文字)
これは上記の市場の中で、対象不動産周辺がどんな特性を持っているかを示すパートです。
上記同一需給圏の中で、どんな良いところがあって、どんな悪いところがあるのか?という点に注意してざっと確認いただけると良いでしょう。
1-3.個別的要因の分析
1-3-1.土地に関する要因・1-3-2.建物に関する要因(青文字)
各々土地・建物の特徴を述べた部分です。
諸々訳の分からないことを書いていると思いますが、特に文章になっているところ(何かある場合に文章になることが多いです)・特徴的なことを書いてそうなところをご確認ください。
1-3-3.建物及びその敷地に関する要因(赤文字)
土地・建物全体としての対象不動産の特性について書かれた部分です。
また、前記の同一需給圏域の中での競争力の程度・最有効使用のシナリオなども書いていますので、物件の価格に直結します。
その物件に対する鑑定士の価値判断を示す部分を中心に、しっかりと読んでください。
2.鑑定評価手法の指摘(青文字)
ここは、前記を踏まえて、どのような鑑定評価手法を使うのかが書かれたパートです。
通常の物件であれば定型文ですが、特殊な物件の際には特殊な手法が使われる場合もあります。
まずは違和感がないかは確認いただければと存じます。
4.試算価格の調整と鑑定評価額の決定(赤文字)
複数手法から、どのように鑑定評価額を導出したかが書かれたパートです(試算価格の調整については、過去記事:試算価格の調整という謎の行為を解明をご参照ください)。
この部分の説得力は、鑑定書全体の説得力にもつながりますので、読んですっと腹に落ちるかどうかを意識しながらしっかり読んでください。
この記事のまとめ
この記事では、鑑定評価書の基本的な構成と、読むべきパート・読み流して良いパートを提示しました。
鑑定書の中心になるのは、重要事項の書かれた『表題』と、評価額を導出した理由を示した『鑑定評価額の決定の要旨』になります。
『表題』で読むべき事項(読まなくて良いところを削除しました)は、
1.鑑定評価額
2.対象不動産の表示
3-1.類型
3-2.鑑定評価の条件
3-3.価格時点
3-4.価格の種類
4-1.鑑定評価の依頼目的
7.対象不動産の確認
8.不明事項に係る取り扱い
『鑑定評価額の決定の要旨』で読むべき事項(上記と同様の処理をしてます)は、
1-2-2.同一需給圏の特性
1-2-3.近隣地域の特性
1-3-1.土地に関する要因
1-3-2.建物に関する要因
1-3-33.建物及びその敷地に関する要因
2.鑑定評価手法の指摘
4.試算価格の調整と鑑定評価額の決定
となります。
上記の部分のみを読めばよいと思えば、多少は気分が楽になったのではないでしょうか?
また、上記のようにメリハリを付けていくと、余計な情報に気を取られないので、逆に対象不動産の特性が頭に入ってくるのを感じられると思います。
実際に読む際には、最初に赤字のみ・次に青字までと段階的に読んでいくのも効果的です(私はそういう読み方をします)。お好みもあろうかと存じますが、一度試してみてください。
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