賃料増減額交渉で『直近合意を作る』という発想

今回は、賃料交渉の応用編といいましょうか、多少ずるがしこい方法といいましょうか…なのですが、『直近合意を作る』という発想について書いてみたいと思います。

今回は、2つの事案を題材として進めていきたいと思います。

この記事は、過去記事『継続賃料=差額配分法(1/2配分)と思うとかなり危険』を前提にしております。未読の方は、そちらを読んでいただいてから、この記事を読んでいただくことをお勧めします。

1.そもそも安すぎた契約の増額

『勝ち戦』っぽいご相談

先生のもとに、

最近私が持ってるビル周辺のオフィスの賃料は上がってて、今の相場なら18,000円/坪になっている。

ただビルの中に、昔から借りてもらっているテナントさんで14,000円/坪で入っているテナントが居る。

このテナントの賃料増額をお願いしたい。

というご相談が有ったとします。今の賃料相場は、きっちりした資料も持ってきていて問題は無さそうです。

また、現状はもちろん、今後についても基本的に悪い要素が無く、当面は賃料上昇が見込まれる状況だとします。

これは『勝ち戦』なので調停⇒訴訟にしましようか!…っていくには、まだ情報が足りない(直近合意時点等を確認していない)ので、これを見ていきます。

フタを開けると『負け戦』

契約書を確認すると、契約時点から賃料は変わってなくて14,000円/坪。

但し、契約締結時が平成5年と古かったので、懇意にしてる鑑定士さんに情報を整理してもらうと、以下のようになりました。

確かに現時点だけで見ると、現行賃料14,000円/坪・賃料水準18,000円/坪で増額出来そうです。

しかし、現在の賃料水準は直近合意時点の賃料水準より下がっていますし、地価も概ね同様の傾向で動くので基礎価格も下がっています。

ですので、『直近合意時点以降の事情変更』の重要な要素である経済情勢の変動は下向きと言わざるを得ない状態になっています。

実際、大阪の賃料水準の変動は、ざっくり言うとこんな感じで、このような例は良くある話です。

要するに、当初の契約が『安すぎた』訳ですが、冷酷非情な私的自治の世界では、「この種のものは借地借家法で救うべきものでは無い」(=賃料増額請求権は発生していない)と切り捨てられます。

という事でこの案件、当初の印象(楽勝の勝ち戦)とは違って、訴訟等では思いっきり苦しい『負け戦』になってしまいます。

この種の案件の打開策

この種の案件に関しては、調停⇒訴訟というような流れに持ち込むと負けてしまいますので、『私的自治』なんて発想の働かない民民交渉でケリをつけるべきです(もちろん、交渉窓口は先生が担当されるのは有りです)。

しれっと「最近この辺りの賃料上がってるから…」などと言ってみれば、結構あっさりと増額改定が出来てしまう可能性もあります。

増額幅が小さかったとしても、正面から戦うと辛いものであったことを考えれば、万々歳という事になります(もちろんこの点、依頼者様に理解して頂く必要はありますが…)。

ただ向こうが頑なで応じてくれなくて、このままでは永遠に賃料を増額出来なない?という状況になることも有ろうかと存じます。

そんなときのちょっとした裏技が、『不増額の合意書』を作成しておくことです。増減額をしない旨の合意も、直近合意を形成するからです。

この点、平成26年の鑑定評価基準の改正についての公式解説書である『不動産鑑定評価基準に関する実務指針-平成26 年不動産鑑定評価基準改正部分について-』の中で、『直近合意時点の確定が妥当でないと判断される場合』の一例として、「経済事情の変動等を考慮して賃貸借当事者が賃料改定しないことを現実に合意し、賃料が横ばいの場合に、当該横ばいの賃料を最初に合意した時点に遡って直近合意時点としている場合ー本来は、賃料を改定しないことを合意した約定が適用された時点とすべきである。」との記述が有ります。

これを行っておくことで、将来(2年~3年後)に、新たに作った直近合意を起点として増額交渉を行えるようになる可能性が出てきます。

2.有利な契約を守りたい

今回のコロナ禍で大幅に様相が変わって、賃貸市場が激変したエリア(大阪ではいくつか頭に浮かびますよね)があります。

このようなエリア内に物件を持つ顧問先から「コロナ直前に、物凄く良い値段で借りてくれたテナントから半年間20%の賃料減額を言われているのだけれど、どうしたものか?」という相談を受けたとイメージしてください。

尚、コロナの話は、刻一刻と状況が変わりますので、この話はまだ収束の目途が見えていない状況(令和3年3月辺り)を前提にします。

このパターンの場合、

  • 頑張って現状維持を訴えても、向こうも無い袖は振れない
  • 一時減額を飲んでも、また半年後に一時減額を言われる可能性が高い
  • これを蹴って話がこじれて、(一時減額ではない)賃料減額の話になると、大幅な減額になる可能性がある

というのが客観的な状況判断になるでしょう。

この中で、逆に少し小さめ(例えば5%)の本契約の賃料減額を提案してまとめてしまうというのも実はクレバーな方法だったりします。

これによって直近合意が形成されますので、少なくとも2年~3年は5%減の契約で維持できます。

相手方には、一時ではなく継続的に続く減額だということでメリットも感じさせられます。

そしてその後、コロナ終息や大阪万博等でインバウンドも戻ってくれば、ここ(結構厳しい状態)を起点に増額交渉の余地も出てきます。

この記事のまとめ

この記事では、継続賃料の訴訟の中で大きな役割を果たす直近合意について、状況に応じてこれを新たに作ることで今後の契約を優位に進めるという方法論について書かせていただきました。

もちろん、吉と出るか凶と出るかという部分も有りますし、ビジネスジャッジの部分も有りますので、判断は難しい所です。

ただ、賃料増減額交渉時のネタとして、このような発想を持っておくことは損は無いと思います。

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